150周年

リレーエッセイ

造幣局創業当時の圧印機

造幣博物館長 小松 雅彦

令和3年8月、造幣博物館の屋外に展示している造幣局創業当時の圧印機2台が、一般社団法人日本機械学会より「機械遺産」(第111号)に認定されました。これらの圧印機は、「わが国の圧印機製造技術の基本となっただけでなく、初期の硬貨圧印機で、世界的にみても保存されているものは数台しかなく、日本の貨幣制度の整備に貢献した歴史的価値ある機械である」ことが評価されたものです。

今回の機械遺産認定に先立ち、これらの圧印機の歴史的価値を評価すべく、日本機械学会・機械遺産委員会の先生方に来歴、性能等を調査していただきました。その過程において様々なことが分かりましたので、その一部をご紹介します。

まず、上記写真右の薄緑色の方につきまして、当館では「ユロル(Yhlorn)社製圧印機」と紹介しています。しかし、この圧印機はドイツの機械技術者Diedrich Uhlhornが1817年に発明したものであり、正しいスペルはUhlhorn、読み方はウールホルンが適当とのことです。もっとも、明治5年に刊行された「造幣寮首長年報」に「ユロルプレス」と表記されていることから、英国人が主であった当時のお雇い外国人も「ユロル」に近い発音をしていたのかもしれません。

次に、上記写真左の黒色の方について、当館では「トネリ(Tonelli)社製圧印機」と紹介していますが、正しくはThonnelierであり、トネリエと読むのが適当とのことです。
また、この圧印機は、フランスの技術者Nicolas Thonnelierが開発したものですが、彼は設計のみを行っているので、「トネリエ社製」とするのも誤りになります。造幣局八十年史にこの圧印機の写真が掲載されており、銘板部分からパリの「JF CAIL & CIE」社による1857年製であることが読み取れます。ネットで検索すれば、この会社がかつて実在し、蒸気機関車などを製造していたことが分かります。

さて、これらの圧印機の退役後の足取りですが、造幣局の局内報である「時報」昭和47年1月号の職員寄稿文に、2台とも「工作課鍛工場の片隅に、骨董的な価値を帯びて放置されている」とあります。その後、1台は上記写真(平成2年4月撮影)のとおり博物館入口横に、もう1台は博物館北側の現在圧印機が展示されている場所付近に屋外展示されるようになりました。そして平成21年4月の博物館リニューアルオープンを機に、2台並んで屋外展示され、現在に至ります。

造幣局創業当時の圧印機が、創業150周年という記念すべき本年に機械遺産の認定を受けたことは、非常に感慨深く思います。造幣局の歴史を象徴する遺産として、今後も大切に保存していきます。