150周年

リレーエッセイ

1円の歴史

造幣博物館学芸員 澤﨑 瞳

造幣局の創業と同じ明治4(1871)年に誕生し、令和3(2021)年の現在も流通している1円。しかし、その価値やデザイン、大きさは昔と今では全く違います。

今から150年前、最初に発行された1円には、金貨と銀貨の2種類がありました。金貨の1円は、直径13.51mm、重さ1.67gの小さな貨幣でしたが、1.5gの金が含まれ、江戸時代の1両と同等の価値がある高価な貨幣として扱われていました。


明治4年銘1円金貨幣

一方、銀貨の1円は、直径37.58mm、重さは26.96gで、外国との貿易支払い用に使われていました。1円金貨より大きく、龍の図柄が刻まれた貨幣で、使用場所は函館、神奈川、新潟、兵庫、長崎の5か所の開港場に限られていました。


明治3年銘1円銀貨幣

当時、新しい貨幣の図柄には、天皇の肖像を用いることが検討されましたが、多くの人の手で触れるものに使用するのは畏れ多いという理由から、天皇を象徴する龍を用いることになりました。ただし、1円金貨は小さすぎたため、龍の図柄を刻むことはできませんでした。

ところが明治30(1897)年、貨幣法の制定により1円金貨と1円銀貨の廃止が決まりました。日清戦争の講和条約により日本に割譲された台湾では、1円銀貨が使われていたため、造幣局での製造はしばらく続きましたが、大正3(1914)年の1,150万枚を最後に製造は終了しました。

太平洋戦争終了後の昭和23(1948)年に、黄銅製の1円貨幣の製造が開始されましたが、材料価格の値上がりにより、昭和25(1950)年には製造中止となりました。

しかし、1円が使えない生活は不便であるという理由から、再び製造計画が持ち上がりました。新しい1円の図案は公募で決められることになり、2,500点を超える応募作の中から2点が選ばれ、それぞれの案を片面ずつ採用して作られたのが、現在も流通しているアルミニウム製の1円貨幣です。


昭和30年銘1円アルミニウム貨幣

新しい1円貨幣は、昭和30(1955)年から流通が始まり、昭和39(1964)年の東京オリンピック開催の年に、製造枚数が大きく増加しました。
消費税導入とバブル景気が重なった平成2(1990)年には、製造枚数が過去最高の27億6,895万3,000枚を記録。この頃造幣局では、貨幣の製造が追いつかず、多くの職員が残業して業務に励んでいました。

電子マネーの普及などにより製造量は減少したものの、1円貨幣の製造は現在も続いています。直径20mm、重さ1gの小さな貨幣ですが、150年の歴史を持つ、偉大な貨幣です。